
まとめ|「最初の星」は予想より多様だった?――初期宇宙の化学が示す新しい可能性
背景
長年、天文学者は宇宙最初の星(第一世代星=Population III stars)は、すべて太陽の数百〜数千倍の超大質量星だと考えてきました。彼らは短命で超新星爆発を起こし、重元素を宇宙に撒き散らしたとされます。そのため、現代ではすでに存在しないと想定されてきました。
しかし、2025年に発表された2つの研究が、この通説に疑問を投げかけています。
研究① 分子化学が示す「低質量星形成」の可能性
- 分子水素(H₂)は低温環境でガスを冷却し、星形成を助ける重要な分子。
- これまで初期宇宙ではH₂が乏しいため、巨大ガス雲しか崩壊できず「大質量星しか生まれない」と考えられていた。
- ところが最新の実験で、ヘリウム水素分子イオン(HeH⁺)が予想以上に豊富だった可能性が判明。
- HeH⁺は宇宙最初に形成された分子で、H₂生成を促進し、ガス雲を効率的に冷却。
- その結果、より小さなガス雲も崩壊可能 → 低質量星誕生の条件が整っていたかもしれない。
研究② シミュレーションが示す「乱流による星の多様性」
- 台湾・中央研究院の研究チームが詳細なシミュレーションを実施。
- 初期宇宙の巨大ガス雲の中で起きる乱流(turbulence)が、ガスを分裂させ、小さな塊を形成。
- そこから太陽質量と同程度、あるいは最大で40倍程度の質量を持つ比較的低質量の星も形成され得ることを示した。
宇宙進化へのインパクト
- 最初期の星に低質量星が含まれていたなら、寿命が長いため、今も生き残っている可能性がある。
- もし観測に成功すれば、宇宙誕生から間もない頃の化学環境を「生きた化石」として直接探れる。
- また、第二世代の星や最初の惑星形成が、従来の想定よりも早く始まった可能性を示唆。
今後の課題
- 低質量の第一世代星は極めて暗いため、観測が困難。
- すでにいくつかの候補が報告されているが、確実な証拠はまだない。
- 次世代望遠鏡(JWSTや今後の超大型望遠鏡)が鍵を握る。
👉 結論:
「最初の星はすべて超大質量だった」という定説は揺らぎつつあります。初期宇宙の化学と物理は、私たちが考えていた以上に多様で活発だった可能性があり、今後の観測次第では「まだ生き残る最古の星」に出会えるかもしれません。