
ウェッブ望遠鏡が発見したかもしれない新天体 ― 「ブラックホール星」という可能性
背景:謎の“小さな赤い点”
2022年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測で、宇宙初期に存在した**「Little Red Dots(小さな赤い点)」**と呼ばれる天体が発見されました。
これらは通常の銀河や既知のブラックホールでは説明が難しく、当初は「早すぎる銀河」や「超大質量ブラックホール由来」とされましたが、いずれも従来理論を超える存在であったため「ユニバース・ブレイカーズ(宇宙を壊す存在)」とまで呼ばれてきました。
新発見「The Cliff」
今回、マックス・プランク天文学研究所のアンナ・デ・グラーフ氏らの研究チームは、ビッグバンから18億年後に存在した“小さな赤い点”を観測。その光は約120億年かけて地球に届きました。
特徴的なのは、光のスペクトルに見られる急激な明るさの跳ね上がり(バルマーブレイク)。通常の銀河や活動銀河核(AGN)では説明できないほど強いもので、研究チームはこの天体を「The Cliff(断崖)」と命名しました。
「ブラックホール星」仮説
観測データから導かれた新しい解釈が、ブラックホール星(Black Hole Star)です。
- 構造:中心に急速に物質を吸い込む巨大ブラックホール、その周囲を高密度のガスが覆い、加熱されて光を放つ。
- 見た目:まるで恒星のように輝くが、内部では核融合は起きていない。
- 通常の星との違い:重力によるガスの加熱が光源であり、「厚い毛布で包まれた灼熱の天体」と表現できる。
この仮説が正しければ、“小さな赤い点”の正体がブラックホール星である可能性が浮上します。
科学的意義
- 超大質量ブラックホールの誕生の謎
初期宇宙にすでに巨大なブラックホールが存在していた理由を説明できる可能性。 - 銀河進化の新たな段階
ブラックホール星は短命であり、宇宙進化の一時的フェーズかもしれない。 - 未知の天体クラスの提案
既存の銀河やAGNでは説明できない観測を統合する新しいシナリオ。
今後の展望
研究者たちは、より明るい“小さな赤い点”をJWSTで観測し、構造や進化過程を調べる予定です。
また、同様の特徴を持つ天体が他にも存在する可能性があり、長期観測によって「ブラックホール星」が実在するか、あるいは銀河やブラックホールの進化の一過程なのかを見極めることが課題とされています。
まとめ
- 「The Cliff」は、JWSTが捉えた“小さな赤い点”の一つで、既知の天体では説明できない性質を持つ。
- 新仮説「ブラックホール星」は、ブラックホールと恒星の中間のような未確認天体を示唆。
- 実証されれば、宇宙初期のブラックホール形成や銀河進化の謎を解く鍵になる。
✅ 結論:ウェッブ望遠鏡の最新観測は、私たちの宇宙理解を大きく揺さぶる可能性があります。もし「ブラックホール星」が実在すれば、それはこれまで知られていなかった宇宙の姿を明らかにし、初期宇宙研究に新しい道を切り開くことになるでしょう。