「科学者たちが“リアルタイムで”恒星間彗星 3I/ATLAS を追跡──『これはまさにプライムタイム科学』と語られた理由」

Photo of author

By ai-taco

「科学者たちが“リアルタイムで”恒星間彗星 3I/ATLAS を追跡──『これはまさにプライムタイム科学』と語られた理由」

「科学者たちが“リアルタイムで”恒星間彗星 3I/ATLAS を追跡──『これはまさにプライムタイム科学』と語られた理由」

2025年11月25日午前4時。
ハワイ・マウナケア山頂の ジェミニ北望遠鏡(Gemini North) の制御室では、
世界中の視聴者がオンラインで参加する“公開観測セッション”が始まっていた。

画面に映るのは、星々の間を漂う ぼんやりとした小さな光点
それが、太陽系を通過して去りつつある 恒星間彗星 3I/ATLAS だ。

「これはリアルタイムで進行している“プライムタイム科学”だ」
と、研究代表の ブライス・ボリン(Bryce Bolin) 氏は語った。


■ 3I/ATLASは“時間カプセル”──太陽より古い氷と岩を保存する旅人

観測室のモニターに映る彗星は、
単なる輝く点ではなく、「太陽より古いかもしれない物質を封じた時代の断片」だ。

  • 太陽系外で形成された 恒星間彗星(interstellar comet)
  • 惑星系から弾き出され、数十億年を銀河の中で放浪
  • 偶然、2025年に太陽系へ接近
  • 近日点(太陽最接近)を通過後、地球からは太陽の裏側へ
  • 現在は 太陽系外へ離脱中

「宇宙を巡る長い旅の途中で“一瞬だけ”太陽系に顔を出した存在」
という点が、3I/ATLASを極めて特別な天体にしている。


■ ジェミニ天文台が2度の観測に挑む

3I/ATLASを追ったのは 国際ジェミニ天文台(Gemini Observatory) の南北2つの望遠鏡。

● 1回目:ジェミニ南望遠鏡(チリ)──“尾がスイッチオン”する瞬間

2025年8月、3I/ATLASが太陽へ向かう過程で

  • 明るいコマ
  • 活発なジェット
  • CO₂とシアン(CN)優勢のガス組成

という、“太陽系彗星とは異なる特徴”が捉えられた。

● 2回目:ジェミニ北望遠鏡(ハワイ)──太陽を回り込み再出現

10月末、近日点通過後に太陽の裏側へ隠れた彗星が、
11月に北天へ再出現。

今回のオンライン観測はその “復帰後の初観測” だった。

「これはショーではない。本当にデータを分析している最中です」と
科学者 ブライアン・ルモー(Brian Lemaux) 氏は解説した。


■ 観測の裏側:キャリブレーションからIFU観測まで

彗星を撮る前に、望遠鏡では長い準備が行われた。

● 1. 波長キャリブレーション

垂直の明るい線(既知の元素のスペクトル)を使い、
“彗星を正しく測るための物差し”をセット

● 2. フラットフィールド

装置の特性・ムラを補正するための均一光画像。

● 3. 太陽類似星(Solar Analog)観測

彗星は太陽光を反射して見えるため、
太陽光成分を除去して 彗星自身のガスの光 を抽出する。

「大気も装置も完璧ではない。
私たちが知りたいのは、観測対象そのものの“本質”だけだ
とルモー氏は語った。

● 4. 本観測(長スリット → IFU)

  • 長スリットスペクトル:彗星のコマを横断してガス成分の分布を解析
  • IFU(Integral Field Unit):画像の各点に“スペクトルの3Dデータ”を取得

ジェミニ南で検出された「巨大なシアンガスの噴出」が
どのように変化したかが今回の注目ポイントだった。


■ 3I/ATLASの“年齢”は?──複数研究が「太陽より古い」と結論

オンライン参加者の質問から、彗星の“銀河周期”の話題へ。

  • 銀河を1周するのに約2.5億年
  • 太陽と同じく“銀河を周回している存在”

しかし本当に重要なのは“年齢”だった。

● 研究①(Taylor & Seligman)

速度から“年齢–速度関係”を用いて推定
→ 約30〜110億年

● 研究②(Hopkinsら)

銀河の“厚い円盤”をモデルに比較
→ 約76〜140億年

結論:
どちらも太陽(46億年)より古い。銀河史の初期の生き残りかもしれない。

ボリン氏は銀河軌道のシミュレーションを示し、
「これは閉じた楕円軌道ではなく、ガス雲や暗黒物質に乱され続ける“旅人”だ」
と説明した。

3I/ATLASには“帰るべき恒星”を特定する手がかりがもう残っていない。


■ 最終画像:美しいだけではない“位置情報データ”

観測終盤、ジェミニ北は4つのフィルターで画像を取得。
見た目は淡い光点だが、科学的価値は非常に高い。

「これらの画像は美しいだけではない。
彗星の位置を極めて正確に割り出すために使われる
とボリン氏は強調した。

これらのデータはすべて即時公開され、
誰でも解析に参加できる点も今回の観測の画期的な特徴だった。


■ “太陽系外のかつての惑星系”を一瞬だけ捉えた

観測終了間際、外は夜明け。
画面の彗星は淡い光を保ったまま、
静かに太陽系の外縁へ向かっていく。

3I/ATLASは

  • 別の恒星系で形成された
  • 数十億年の間、銀河を放浪してきた
  • 太陽系をかすめ、また去っていく

その姿を、2025年の数ヶ月間、
人類は複数望遠鏡・複数惑星・複数機関から追跡できた。

「誰か(あるいは何か)の惑星系が遺した破片」
を、私たちはほんの一瞬だけ見ることができたのだ。


参考記事

こちらの記事を次のSNSでシェア:

Leave a Comment