
ファイザー社員は「特別なCOVIDワクチン」を接種していた?オーストラリア上院公聴会の発言を検証
「ファイザーがオーストラリア上院の公聴会で、社員には一般市民とは違う“特別なCOVIDワクチン”を接種していたことを認めた」。
こうした情報がSNSなどで再び拡散しています。
確かに、ファイザー側が社員向けに別途確保したワクチン・バッチを使用していたこと自体は事実です。
しかし、
「社員用バッチ=一般向けとは成分が違う特別なワクチンだった」
とまでは、公聴会で認めていません。
ここは非常に重要な違いです。
実際の公聴会は2023年8月3日
この話のもとになっているのは「最近開催された公聴会」ではなく、2023年8月3日にオーストラリア連邦議会で行われた上院委員会の公聴会です。
COVID-19ワクチン接種状況による差別をめぐる法案についての審議で、ファイザー・オーストラリアの担当者が出席しました。
マルコム・ロバーツ上院議員はファイザー側に対し、
「ファイザー社員への接種には、ファイザーが特別に輸入した独自のバッチが使用され、それはTGAによって検査されていなかったと読んでいる。それは正しいか」
と質問しました。
これに対して、ファイザーの規制科学部門責任者ブライアン・ヒューイット氏は、社員向けワクチンプログラムのためにバッチを輸入したことを認めています。
ただし、その理由については、
政府が確保していた一般向けワクチン在庫を減らさないためだった
と説明しています。オーストラリア議会の公式議事録でも、このやり取りを確認できます。
社員専用として7つのバッチが存在していた
その後明らかになった情報によると、ファイザーの社員接種プログラムでは主に次の7バッチが使用されました。
- FF0884
- FA4598
- FE3064
- FA7338
- FA7812
- FC8736
- FC3558
つまり、一般向け政府プログラムとは別に、ファイザー社員用として一定量のバッチが確保されていたという部分については根拠があります。
ここがSNSで「特別なワクチン」と表現されるようになったポイントです。
「TGAが検査していなかった」という点はどうなのか
さらに議論を呼んだのが、一部の社員用バッチについて、オーストラリア医薬品規制当局TGAの表に「Not tested」と記載されていたことです。
実際、後に公開されたTGA内部資料でも、社員プログラム用7バッチのうち4バッチについて、TGA自身によるラボ検査は実施されていなかったことが示されています。
ただし、これは「何の品質確認もされなかった」という意味ではありません。
TGAによると、その4バッチについても欧州の公的なバッチリリース制度「OCABR」の証明書が提出され、TGAがその内容を確認していました。
つまり、
「TGA自身のラボでは検査しなかったバッチがあった」
という表現は事実に近い一方、
「規制当局の品質確認を一切受けていないワクチンだった」
とするのは正確ではありません。
一般市民とは違う成分だったのか
最も重要なのはここです。
ファイザーはその後、社員に使用されたワクチンについて、
一般向けと同じComirnatyであり、製造工程にも違いはなかった
と説明しています。
さらに7バッチのうち、
FF0884、FE3064、FC3558の3バッチは、社員だけではなく一般向けワクチンプログラムでも実際に使用されていました。
これは「社員用バッチはすべて一般向けとは異なる特殊製剤だった」という説とは整合しません。
TGAの後の内部資料でも、
一般向けバッチと社員向けバッチの製造工程に違いはなかった
とされています。
なぜ社員用として別バッチを用意したのか
ファイザー側の説明は比較的単純です。
当時オーストラリア政府が購入したワクチンは政府管理の供給網を通じて国民へ配布されていました。
ファイザーは社員接種を実施する際、その政府向け在庫を使用すると一般市民向けの供給量を減らしてしまうため、追加分を別途輸入したとしています。
また一部は数量が少なく、政府向けの最低配送・包装単位を満たさない余剰量だったため、社員接種プログラムに利用したとも説明されています。
「特権階級だけ安全なワクチン」という証拠はあるのか
今回拡散している文章では、
「多くのエリートが一般人とは異なるワクチンを受け取っていた」
と主張しています。
しかし、公聴会で確認できるのはファイザー社員向けに別途確保されたバッチが存在したことです。
政治家、富裕層、メディア関係者などを含む「特権階級全体」に別のワクチンが提供されたことを示す証拠は、この公聴会では提示されていません。
また、社員向け製剤の中身が一般向けと異なっていたことを示す成分分析も確認されていません。
AAP FactCheckも公式議事録やファイザー側への照会をもとに、
「ファイザーが社員に一般人とは実質的に異なるワクチンを投与していたと認めた」という主張は誤り
と判定しています。
その後TGAはバッチ間の品質も調査
さらに2025年、TGAはオーストラリアで供給されたCOVID-19 mRNAワクチンについて、詳細なバッチ試験結果を公表しています。
PfizerのComirnatyとModernaのSpikevax合わせて167バッチについて、
RNAの同一性、RNA量、完全性、脂質成分、脂質ナノ粒子のサイズ、エンドトキシンなどを調査したところ、TGAはすべての試験対象バッチが規格を満たし、バッチ間で問題となる傾向は確認されなかったと報告しています。
もちろん、これは「ワクチンに副作用が存在しない」という意味ではありません。
あくまで、「社員用に意図的に別成分の製剤を作った」という主張とは別の問題です。
まとめ
オーストラリア上院公聴会で明らかになった事実は、確かに興味深いものです。
ファイザーは、
社員接種プログラム用として別途確保・輸入したバッチが存在した
ことを正式な公聴会で認めています。
また、一部の社員用バッチについてTGA自身のラボ検査が行われていなかったことも、後の資料から確認できます。
しかし、それを、
「ファイザーは社員や特権階級に、一般市民とは成分の異なる安全なワクチンを秘密裏に接種していたと認めた」
と解釈する証拠は確認できません。
むしろ確認できる資料では、社員用と一般向けで製造工程に違いはなかったとされ、社員用7バッチのうち3バッチは一般市民にも使用されていました。
したがって、この件を正確に表現するなら、
「ファイザーが社員向けに一般供給網とは別のバッチを確保していたことは事実。しかし、それが別成分の“特別なワクチン”だったことを認めたわけではない」
というのが、現在確認できる一次資料に最も近い結論です。