米アリゾナ大学スチュワード天文台のポスドク研究員、ユンダ・ジュー氏らの研究チームは2026年9月、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測データから、宇宙誕生からわずか5億年後(現在の宇宙年齢のおよそ3パーセントの時点)に存在した初期の銀河が、すでに炭素や酸素、ケイ素といった重元素を周囲の銀河間空間へ放出し始めていたことを示す直接的な証拠を発見したと発表した。成果は学術誌「ネイチャー・アストロノミー」に掲載された。
研究チームは、公開されているJWSTの分光データを手作業で数百個の銀河にわたって精査し、赤方偏移(z)7.2〜9.3、つまり地球から見て宇宙誕生後およそ5億年の時点にあった3個の銀河のスペクトルに、特徴的な「青方偏移した吸収線」を見出した。この吸収線は、ガスが銀河から外向きに、つまり観測者である地球の方向へ移動していることを示す指標で、炭素・酸素・ケイ素といった重元素が、毎秒50〜250キロメートルという速度で銀河から銀河間空間へ噴き出している様子を捉えたものだという。観測にはおよそ30時間分のJWST近赤外線分光観測装置(NIRSpec)のデータが使われ、これほど遠方の淡い天体の吸収スペクトルを検出するのに十分な蓄積時間が確保された。
これまでの標準的な宇宙論モデルでは、誕生してから間もない最初期の銀河を取り巻くガスは、ビッグバン直後に生成された水素とヘリウムがほぼそのまま残る「原始的(プリスティン)」な状態にあるはずだと予測されてきた。重元素は恒星の内部の核融合反応で作られ、超新星爆発などを通じて周囲へ放出されるプロセス、いわゆる「バリオンサイクル」を経て初めて宇宙空間に広がっていくとされ、それには一定の時間がかかると考えられていたためだ。しかし今回の観測結果は、このバリオンサイクルが、これまでの想定よりもはるかに早い時期、宇宙誕生後わずか5億年の段階で既に始まっていたことを示している。
この発見が重要なのは、宇宙最初期に誕生したとされる「初代星(パピュレーションIII、Pop III)」の探索にも影響を与えるためだ。Pop III星は、金属(天文学における重元素)をまったく含まない原始的なガスから生まれた、理論上の宇宙最初の世代の星とされ、これまで多くの研究者がその発見を目指してきた。しかし今回のように、銀河が宇宙の非常に早い時期からすでに周囲を”汚染”していたのであれば、本当に純粋な原始ガスや、そこから生まれるPop III星が観測可能な状態で存在していた期間は、想定よりもずっと短かった可能性がある。宇宙最初期の銀河の姿を追い求めるJWSTの観測をめぐっては、宇宙誕生わずか15億年の時点で天の川銀河に似た渦巻構造を持つ「グランドデザイン銀河」が見つかった研究など、初期宇宙の銀河が想定以上に速く”成熟”していたことを示す成果が相次いでいる。
研究チームは、今後さらに多くの初期銀河のスペクトルを精査し、重元素の拡散がどれほど普遍的な現象だったのか、また銀河の質量や活動性によってバリオンサイクルの始まる時期にどのような違いがあるのかを検証していく方針だという。宇宙が本当に”純粋”だった期間がどれだけ短かったのかという問いは、初代星探索の戦略そのものにも影響を与える可能性がある。
出典: University of Arizona News「JWST finds early galaxies were already seeding the universe with heavy elements」(2026年9月)