2025年7月16~17日にロンドンで開催された「空軍参謀長主催・グローバル空・宇宙チーフ会議2025(Global Air & Space Chiefs’ Conference 2025)」において、各国の軍幹部が「宇宙の統合的活用が今後の国家防衛に不可欠である」と強調しました。

【宇宙は戦略ドメインの中核へ】統合された宇宙戦力が国家防衛の鍵に──各国軍幹部がロンドンで議論
◆ 「宇宙は補助ではない」──新たな作戦ドメインとしての自立性
第二次世界大戦中の名著『Victory Through Air Power(空軍による勝利)』が空軍の重要性を訴えたように、いまや宇宙ドメインも陸・海・空・サイバーと並ぶ戦略的中枢に昇格すべき時代に来ています。
米宇宙軍のショーン・ブラットン中将は「すでに空・陸・海の各作戦領域で宇宙の力は統合されているが、さらなる一体化が必要だ」と述べました。通信、測位、作戦支援など、宇宙技術はあらゆる軍事行動を支えています。
◆ 宇宙ドメインの「平常化」と「明確な役割理解」が必要
ブラットン中将は統合強化のために以下の具体策を提案:
- 宇宙に関する用語・概念の標準化(平常化)
- 空・陸・海が宇宙の必要性を、宇宙が他ドメインのニーズを理解する相互理解
- 宇宙を含む統合作戦の訓練と教義の整備
- 宇宙を起点とした敵の標的化からの防御
- 宇宙作戦の計画段階からの組み込み
さらに、「技術だけでなくマインドセットとドクトリンの転換が重要」だとし、宇宙オペレーターも他領域と同様の判断力と訓練を持つべきだと強調しました。
◆ すべてのドメインは連動している
オーストラリアのスーザン・コイル中将は「どれか一つがゼロなら全てがゼロ」と発言し、空・海・陸・宇宙・サイバーの5つのドメインが常に相互補完しあうべきだとしました。
また、宇宙空間における敵意の判断基準が曖昧である点も議論に挙がり、「交戦規定(Rules of Engagement)」の確立と戦術訓練が急務であることも強調されました。
◆ 欧州諸国とNATOの動きも活発化
- 英国は2025年6月に発表した「戦略防衛レビュー」にて宇宙を正式な作戦領域として明記。
- 英宇宙軍司令官ポール・テッドマン少将は「2035年までに競争力ある宇宙強国となることを目指す」と発言。
- 仏空軍宇宙司令官フィリップ・アダム少将は「将来的な大規模衝突は宇宙またはサイバー空間から始まる」と警告。
- NATOとの連携や、イスラエルのアイアンドーム(迎撃システム)の欧州導入の可能性にも言及。
◆ 英国の宇宙産業投資にも注目
会議期間中、英国宇宙庁は以下のプロジェクトに対して**合計6.1百万ポンド(約11億円)**の資金を投入:
- MDA Space UK「SkyPhi」:LEO衛星を利用した5G/6G通信
- Orbit Fab「Radical」:通信衛星向け軌道内燃料補給技術
- SSTL:月面通信システム
- Viasat:GEO/LEO統合型5G直通通信ネットワーク
- さらに、15の英国宇宙クラスターに対しても革新と経済成長促進のための資金援助が発表されました。
◆ まとめ:宇宙戦略は「次の常識」
- 宇宙は補助的な役割ではなく、主要な防衛ドメイン
- 統合の鍵は用語統一・相互理解・一体訓練
- NATOや同盟国との宇宙戦略連携も進展中
- 英国は宇宙経済支援にも積極的
- 「宇宙での戦闘」は将来の現実かもしれない
軍事戦略における宇宙の役割は今後ますます大きくなっていくでしょう。「空の次は宇宙」──この言葉が現実になる日が近づいています。