
髪の毛の100分の1サイズの光変調器が切り開く
超大規模量子コンピュータへの道
米コロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)の研究チームは、
人間の髪の毛の直径の約100分の1という極小サイズの
光学位相変調器(optical phase modulator)を開発した。
この成果は学術誌 Nature Communications に掲載され、
数千〜数百万量子ビット規模の量子コンピュータ実現に不可欠な
レーザー制御のスケーラビリティ問題を解決する可能性を示している。
なぜ「光制御」が量子コンピュータの限界だったのか?
現在、最も有力な量子コンピューティング方式の一つが、
- トラップドイオン
- トラップド中性原子
といった原子ベースの量子コンピュータである。
これらでは、各量子ビット(原子)を操作するために、
- 極めて精密に調整されたレーザー光
- 周波数誤差は 10億分の1以下
という精度が求められる。
原子1つ1つと「会話」するために、
周波数がわずかに異なる多数のレーザーが必要になる。
従来技術の致命的な問題
これまで、レーザー周波数の微調整には、
- 大型の卓上型光学変調器
- 高消費電力
- 発熱が大きい
- 手作業による組み立て
といった研究室向け装置が使われてきた。
そのため、
- 数十〜数百量子ビット → 可能
- 10万量子ビット以上 → 事実上不可能
という壁が存在していた。
「光学テーブルが並ぶ巨大な倉庫に
10万台の装置を置くわけにはいかない」
— Matt Eichenfield 教授
ブレークスルー:超小型・超低消費電力の光変調器
研究チームが開発した新デバイスは、
- マイクロ波周波数(数GHz)で振動
- 光の位相を極めて精密に制御
- 安定した新しいレーザー周波数を生成
することができる。
技術的な強み
- 消費マイクロ波電力は
既存商用デバイスの約1/80 - 発熱が大幅に低減
- 1チップ上に多数の光チャネルを集積可能
👉
これは、量子コンピュータの“光配線問題”を根本から変える進歩だ。
CMOS製造という「量子最大の武器」
この研究の最も重要なポイントは、
CMOSファブ(半導体量産工場)で完全に製造された点にある。
- スマホ
- PC
- 車載チップ
- 家電
と同じ製造技術を使用。
「CMOS製造は、人類が発明した中で
最もスケーラブルな技術だ」
— Matt Eichenfield 教授
これにより将来は、
- 同一性能の光変調器を
数千〜数百万個単位で量産 - 低コスト・高信頼性
が可能になる。
「光のトランジスタ革命」
共著者の Nils Otterstrom は、この進歩を次のように表現する。
「私たちは、
光学分野を“真空管の時代”から
“トランジスタの時代”へ押し進めている」
つまり、
- 大型・高電力・非集積
→ 真空管的光学 - 小型・低電力・集積
→ 集積フォトニクス
への転換点だ。
完全統合フォトニック量子チップへ
研究チームは現在、
- 周波数生成
- フィルタリング
- パルス制御(pulse carving)
を1枚のチップ上に統合する
完全フォトニック量子制御回路を開発中。
今後は、
- 量子コンピュータ企業と連携
- 最先端の原子・中性原子型量子マシンで実証
が予定されている。
「このデバイスは、
超大規模量子制御の“最後のピース”の一つだ」
— Jake Freedman 氏
まとめ|量子スケーリングは「光」で決まる
- 量子ビット数の拡大 ≠ 計算能力の拡大
- 制御できなければ意味がない
- 光制御は最大の隠れたボトルネックだった
今回の成果は、
- 数万〜数百万量子ビット時代を見据えた
- 実装現実性のある量子ブレークスルー
であり、
量子コンピューティングを
研究室から工業製品へ引き上げる決定打の一つになり得る。
量子の未来は、
“量子ビット”だけでなく
“光をどう操るか”で決まる。