米宇宙軍(Space Force)は、航空機の動きを軌道上から常時追跡できる衛星システムの可能性を模索しているが、その実現にはなお多くの技術的・戦略的課題が残ることが明らかになった。
現在は、地上移動目標指標(GMTI)衛星ネットワークの構築が優先課題とされており、空中移動目標指標(AMTI)衛星による追跡は長期的視野で進められている状況です。
以下は、2025年8月4日付で報じられた米宇宙軍による空中移動目標追跡(AMTI)衛星開発に関する記事のまとめです。

【衛星で敵機追跡?】宇宙ベースの航空監視構想、実現はまだ遠く──米宇宙軍は地上目標監視に注力
◆ 空から宇宙へ?航空監視の重心が移動中
- 現在、AMTIは主にE-3 Sentry AWACSや地上レーダーが担っているが、E-3は老朽化が進み、「E-7 Wedgetail導入計画」もキャンセルされる見通し。
- 一方で、宇宙ベースAMTIに2.2億ドル以上の資金が新たに計上され、注目度が急上昇。
◆ 宇宙軍の見解:複数の「現象論(phenomenology)」が必要
宇宙軍副作戦長ディアナ・バート中将は次のように述べています:
「単一の技術で万能な解決策はない。複数の現象論を組み合わせる必要がある。」
この現象論とは、レーダーや赤外線、電磁波など異なるセンサー手法の組み合わせを意味し、AIによるリアルタイム解析で「それが空中移動目標かどうか」を判断することを目指しています。
◆ 地上目標監視(GMTI)が先行
- 現在はGMTI(Ground Moving Target Indicator)衛星の実運用体制の整備が優先課題。
- NGA(国家地理空間情報局)やNRO(国家偵察局)と共同で、バージニア州スプリングフィールドの**JMMC(合同ミッション管理センター)**にて開発中。
- デルタ7部隊がGMTI機能の中核を担っており、戦術・手順の確立が進行中。
◆ 課題:リアルタイム性と解像度
- バート中将:「目標に近いほど高解像度が得られるが、宇宙からは難易度が高い」
- そのため、今後もAWACSや地上システムとの併用は不可避とされる。
◆ AI・自動化による即時反応が鍵
- 新しいGMTI/AMTI衛星群は大量のデータを処理可能なAI基盤が必要不可欠。
- 「感知 → 判断 → 通信 → 攻撃指示」までを数分以内に完結させることが理想とされています。
◆ 技術基盤は整備中:衛星と通信網
- すでに低軌道での関連衛星打ち上げが進行中。
- 光学・低出力レーダー搭載衛星や、通信メッシュネットワークも構築中。
- ただし、GMTI/AMTI専用衛星数や構成の詳細は機密扱い。
◆ 議会はE-7キャンセルに懸念
- アラスカ選出のリサ・マーカウスキー上院議員は、「E-3はもはや維持困難。E-7キャンセルは北部防衛に大きな穴を空ける」と批判。
- 空中監視能力の宇宙依存には依然リスクが高いという懸念が強く、議会はE-7プログラムの復活を模索中。
▼ まとめ
- 空中目標を宇宙から追跡する技術(AMTI)は開発途上
- 現在は地上目標(GMTI)の宇宙監視網の構築が主軸
- 成功すれば監視の即時性・持続性を革新する可能性
- ただし、既存のAWACS等を完全に置き換えるには大きな課題が残る
米宇宙軍の野心的な宇宙監視構想は、今後の宇宙×軍事の転換点となるかもしれません。一方で、今そこにある脅威に対する即応性とのバランスが、今後の軍事戦略を大きく左右することになりそうです。