
「中国の再使用ロケット、初の軌道試験でブースター爆発──SpaceX に追いつくための歴史的一歩と課題」
2025年12月3日、内モンゴル自治区・アルシャー盟の砂漠地帯で、
中国民間ロケット企業 LandSpace(藍箭航天) が開発する再使用ロケット
「朱雀(Zhuque)-3」 の 初の軌道飛行試験 が行われた。
ロケット本体は 予定どおり軌道投入に成功。
しかし、ミッションの核心であった 第1段ブースターの着陸回収 は失敗し、
降下中のエンジン再点火時に“異常”が発生して爆発。
中国企業として史上初の“着陸実験”は未達となった。
それでも今回の試験は、
中国の商業宇宙産業が「SpaceX 型の再使用ロケット競争」に本格参入した
ことを示す歴史的なマイルストーンでもある。
■ 何が起きたのか?──「90%成功」と評価される理由
● ロケットの成果
- 軌道投入には成功(中国の民間企業としては非常に大きな成果)
- しかし着陸フェーズで異常が発生し、
指定の回収パッド手前で爆発・破壊 - デブリは「回収区域の端」に落下(重大事故には至らず)
LandSpace の声明では、
「第1段エンジン着陸時の点火後に異常が発生し、軟着陸を阻害した」
と説明されている。
● “90%成功”と専門家が見なす理由
- 着陸地点に ほぼ到達していた
- 姿勢制御・誘導がほぼ正常に機能
- 構造または点火系の単発的な不具合と推測され、
“長期的遅延を招くタイプの失敗ではない”と評価
Orbital Gateway Consulting のブレイン・カーシオ氏は
「非常に印象的な試験であり、大部分は成功だった」と語った。
■ なぜ中国は“再使用ロケット”にこだわるのか?
再使用技術は以下の理由から 国際宇宙産業の核心技術 になりつつある:
① 打ち上げコストを劇的に下げる
→ 衛星コンステレーション(巨大ネットワーク)競争で必須
② 打ち上げ頻度(ターンアラウンド)を高速化できる
→ 商業利用・軍事利用の両面で優位性
③ 国家戦略
宇宙は通信・偵察・防衛と直結し、
軍事力の中核 とも位置づけられている。
SpaceX が世界市場を支配できた理由も、
“ブースター再使用”の実現が決定打 だった。
■ LandSpace は中国版 SpaceX になれるのか?
● Elon Musk もコメント
マスクは X で Zhuque-3 の設計が
「Starship の要素を Falcon 9 に加えたようだ」
と評価しつつ、次のように予測した:
- Falcon 9 と同等の信頼性に到達するには5年以上かかる
- その頃、SpaceX はすでに Starship を量産し、年間ペイロードは Falcon の100倍 に
つまり「追いつく頃には、SpaceX はさらに先へ進んでいる」という構図だ。
● LandSpace の実績
- 2023年:世界初の メタン+液体酸素 ロケット(Zhuque-2)による軌道打ち上げ成功
- 2026年以降:中国宇宙ステーション「天宮」の補給ミッションに参加予定
→ 民間企業が国家宇宙ステーションを支援する初の事例 となる見込み
CEO 張昌武氏は
「SpaceX に遅れているのは事実だが、正しい方向で開発を続ければ追いつける」
と語っている。
■ 中国の商業宇宙産業は“ゼロから10年で転換点”へ
過去10年間で中国は
“ほぼゼロ”から“多企業が軌道打上げ可能” な商業市場を形成。
主要ポイント:
- Space Pioneer、iSpace、Deep Blue Aerospace など複数企業が再使用技術を開発
- 国有の上海航天(SAST)の 長征12A も再使用試験を予定
- 中国政府は商業宇宙産業を「戦略的新興産業」と位置づけ
- 新たな監督部署を設立
- 全国レベルの 商業宇宙統合戦略(2年アクションプラン) を発表
Taibo Research Institute の劉宇章氏は、
「2015年から2025年の10年で、中国の商業宇宙産業は臨界点に達した」
と述べている。
■ 失敗でも前進──“SpaceX が歩んだ道をなぞる中国企業”
SpaceX も当初は着陸に何度も失敗し、
爆発映像が“名物”だった時代がある。
中国企業は今まさに、
“同じ技術的山を登り始めた段階” といえる。
劉氏はこう語る:
「失敗しても、ゼロに戻り、迅速に改善を続けるという考え方がある」
これは SpaceX の成功を支えた文化 と非常に似る。
■ 今回の試験の意味:失敗ではなく“本格参入の号砲”
Zhuque-3 のブースターは着陸に失敗した。
しかしそれは、
“中国の民間企業が再使用ロケット競争に正式に参戦した”
ことを示す象徴的な出来事となった。
今後の焦点:
- ブースター着陸技術の改善スピード
- Zhuque-3 の量産・打上げ頻度
- 2026年以降の“天宮ステーション補給”への実用投入
- 中国全体の商業衛星市場の拡大
- 長征12A/天龍3号など他社の試験結果との比較
コスト低下 × 打上げ頻度向上 × 国家戦略 の3要素が揃えば、
中国の民間宇宙産業は世界市場へ本格的に進出する可能性がある。