米欧の研究チームは2026年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測で、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*」からわずか0.55光年しか離れていない領域で、水と酸素に富んだケイ酸塩ダストが形成・存在していることを確認したと発表した。研究は独ケルン大学のフロリアン・パイスカー氏が主導し、成果は学術誌「アストロノミー&アストロフィジックス」に掲載された。強い放射線とブラックホールの重力が支配するこの極限環境で、水の存在が直接確認されたのは今回が初めてだという。
観測対象となったのは、寿命の終盤に差し掛かった進化段階(漸近巨星分枝、AGB)にある恒星「IRS 3」だ。研究チームはウェッブの中間赤外線観測装置(MIRI)を用いてIRS 3が放つ光を詳細に分析し、酸素に富んだケイ酸塩ダストの明確な痕跡に加え、星を取り巻くダストの外層(エンベロープ)の中に水が存在する証拠を新たに検出した。このダストの殻は星からおよそ1万天文単位(太陽から地球までの距離の1万倍)にわたって広がっているとみられる。
いて座A*の周辺は、超大質量ブラックホールが放つ強烈な放射線や潮汐力によって物質が破壊されやすく、通常であれば水やダストのような繊細な物質が生き残るのは難しいと考えられてきた環境だ。天の川銀河の中心領域をめぐっては、電波干渉計による27年分のデータをAIで1本の動画に再構成し、ブレーザーのジェット構造を解析した先の研究でもいて座A*の急激な変化が取り上げられていたが、今回の成果は、そうした荒々しい活動の至近距離でも、死にゆく星が新たな世代の星や惑星の材料となりうる物質を静かに生み出し続けていることを示した点で異彩を放つ。
研究チームは、IRS 3のような進化した星が、銀河中心という宇宙で最も過酷な環境の一つにあってもなお、化学的に豊かな物質を周囲へ供給し続けている事実は、銀河中心部での星形成や物質循環を理解するうえで重要な手がかりになるとしている。今後はウェッブによる追加観測を通じて、いて座A*近傍に存在する他の進化した星々についても同様の化学組成の調査を進め、極限環境下での物質形成のメカニズムをさらに検証していく方針だという。
出典: ESA/Webb「Webb reveals dust and water surviving in the extreme environment around the Milky Way’s central black hole」(2026年8月)