中国の電波望遠鏡FAST(口径500メートルの球面電波望遠鏡)を使う天文学者のチームが、周囲に目に見える星も銀河もない、コンパクトな水素ガスの雲を見つけました。天体名は「J1351+0039」。中性水素の質量は太陽の約50万倍にのぼり、星を一つも持たない「暗黒銀河」の最有力候補のひとつになりうると報じられています。発見論文は9月24日にプレプリントサーバーのarXivに投稿されました。
標準的な宇宙論モデル(ΛCDM)では、小さな暗黒物質のハロー(目に見えない物質の塊)が先にでき、それらが合体して大きな銀河になっていくと考えます。このモデルは、質量の小さなハローの一部が、最後まで星を作らないことも予測しています。宇宙が再び電離された時代以降、ハロー内のガスが紫外線の背景放射で温められ、星を作れるほど冷たく高密度にならなくなるためです。こうした星のないガスのハローは「再電離限界H I雲(RELHIC)」、あるいは「暗黒銀河」と呼ばれます。星がほとんどないため、中性水素が出す波長21センチの電波でしか見つかりません。
J1351+0039は、FASTによる水素の盲探査で見つかりました。研究を率いたのは中国国家天文台のJin-Long Xu氏らです。大きな銀河が投影距離1.5度以内(100キロパーセク未満)かつ速度差250 km/s未満に存在しないという条件で「孤立」を定義しており、これを満たします。2026年7月から8月にかけて3回の観測を行った結果、彗星のような尾も、ガスの橋も、近くの伴銀河も見つからず、他の銀河との重力的な相互作用(潮汐)で生じた雲という説明は退けられました。DESIレガシーサーベイの深い光学画像にも、星の対応天体は写っていません。
雲は丸い形をしており、温度は約1万ケルビン。紫外線背景と平衡にある状態で、一度も冷えて星を作らなかった暗黒銀河と整合的です。力学的に見積もった全質量は太陽の約1億3000万倍で、ガスの質量を大きく上回るため、大半は暗黒物質だと考えられます。回転速度は約4.2 km/s、ガスのランダムな運動は約11.6 km/sで、秩序だった回転より無秩序な運動の方が大きく、雲はガス自身の圧力で支えられています。
従来の暗黒銀河の例は、大質量の銀河の近くで見つかったものでした。J1351+0039は完全に孤立しているため、研究者らは「これまで見つかった中で最もクリーンで説得力のある孤立RELHIC候補」と結論づけています。ただし、非常に暗い星の集まりがDESIの画像では検出できないだけの可能性は残ります。本当に星がないのかを確かめるには、ウェッブ望遠鏡やハッブル望遠鏡による、さらに深い撮像が必要になるかもしれません。
出典: arXiv / Phys.org「Discovery of an isolated RELHIC Candidate: J1351+0039」(2026年10月17日)