ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)などの研究チームが、約10万個のクェーサー(超大質量ブラックホールが物質を飲み込んで明るく輝く銀河の中心核)を分析し、一部のブラックホールが銀河の中心から「蹴り出されて」動いているとする統計的な証拠を得たと発表しました。成果は英国王立天文学会の月報(MNRAS)に掲載されています。筆頭著者は、バーミンガム大学助教のベンス・ベーチ氏です。
2つの銀河が合体すると、中心の超大質量ブラックホール同士も最終的に合体します。このとき放たれる重力波が運動量を偏って持ち去るため、残ったブラックホールが反動(キック)を受けます。速度は時速数百万kmに達しうるとされます。一般相対性理論が予測する現象ですが、個別の候補はあっても、他の説明を排除して確認された例はありません。
ELTEのペーテル・ラファイ氏らは2016年に、動きの速いブラックホールを持つクェーサーほど、平均してダスト(宇宙の塵)が多いはずだと予測していました。ブラックホールは銀河の中心で最も速く、そこはダストが最も濃いためです。
チームはスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)のクェーサー約10万個を使い、ブラックホールの速度を、ブラックホール近くのガスとそれより遠いガスの波長のわずかなずれ(救急車のサイレンの音程の変化に似た効果)から求めました。ダストの量は、光の「赤さ」で測りました。その結果、動きの速いブラックホールを持つクェーサーは平均して赤く、予測と一致しました。ダストに深く覆われた天体の割合は、最も速いグループが最も遅いグループの3倍でした。
データの選び方や測定手順を変えても結果は保たれ、ブラックホールと一緒に動かないガス雲の光だけで測ると、相関が消えたといいます。最も自然な説明は、過去の合体で蹴り出されたブラックホールが一部のクェーサーに含まれるというものです。もしそうなら、調べたクェーサーのおよそ半数で比較的最近に2つのブラックホールが合体したことになるとされますが、この見積もりは不確かだと著者らは述べています。他の物理過程を完全には排除できず、追加の観測とモデルが必要です。
欧州宇宙機関(ESA)は、2035年に重力波観測衛星LISAの打ち上げを計画しており、3機の衛星が約250万km離れて、こうした合体を直接検出する予定です。今回の手法は、ブラックホールの合体頻度やキックの速さを探る手がかりにもなりそうです。
出典: エトヴェシュ・ロラーンド大学(Phys.org掲載)「Supermassive black holes ejected from galactic centers? Quasar survey supports decade-old prediction」(2026年10月22日)