2023年11月23日に米LIGO(レーザー干渉計重力波観測所)が検出した重力波イベント「GW231123」は、それぞれ太陽質量の約137倍と103倍という巨大なブラックホール同士が合体し、最終的に太陽質量およそ225倍のブラックホールを形成したとみられる、重力波観測史上最も質量の大きいブラックホール合体として注目されてきた。この質量域は、通常の恒星進化の理論では黒色矮星の重力崩壊だけではブラックホールが直接生まれにくいとされる「対不安定型質量ギャップ」にまたがっており、その成因は長らく謎とされてきた。
ところが2026年9月に発表された新たな解析によれば、この「規格外」の質量は実在するものではなく、観測データが重力レンズ効果によって歪められた結果である可能性があるという。研究チームは、信号の経路上に存在する銀河規模の重力場の中に、太陽質量数百倍程度のコンパクトな天体(レンズ)が存在し、これが重力波を増幅・回折させたとするモデルを構築した。統計的な解析では、この重力レンズ説を支持する対数ベイズ因子が2.82に達し、偶然にこうしたパターンが生じる確率(誤検出率)は1%を下回ったとしている。
この重力レンズ説が正しければ、GW231123の本来の合体質量は、これまで見積もられていた太陽質量190〜265倍という範囲から、100〜180倍程度まで下方修正されることになる。これは恒例の恒星進化モデルが許容する質量域との矛盾を大きく緩和するもので、「説明不可能な規格外天体」という位置づけそのものを見直す必要が出てくる。
ただし研究チームも強調するように、重力波信号における重力レンズ効果はこれまで一度も確実に観測された例がなく、今回の解釈はあくまで複数ある仮説の一つにとどまる。もし今後の追加解析や次世代の重力波観測装置によってこの説が裏付けられれば、重力波の重力レンズ現象として初めての確認例となり、一般相対性理論の検証や宇宙論的な距離測定に新たな手法をもたらす可能性もある。研究チームは今後もLIGO・Virgo・KAGRAなどのデータを用いて検証を続けていく方針だという。
出典: phys.org「The biggest black hole merger ever observed could be less massive than it appears」(2026年9月)