欧州宇宙機関(ESA)の太陽探査機「ソーラー・オービター」が、太陽からわずか0.3天文単位という観測史上最も近い距離で「ヘリオスフェリック電流シート(HCS)」を横切り、その詳細な構造を捉えることに成功した。研究を主導したのは米サウスウエスト研究所(SwRI)のケイイチ・オガサワラ博士らのチームで、成果は太陽風の起源をめぐる長年の謎に新たな手がかりを与えるものとして注目されている。
ヘリオスフェリック電流シートとは、太陽の北半球と南半球で向きが異なる磁場の境界にあたる、太陽系全体に広がる巨大な波打つ面のことだ。太陽から太陽系の外縁部まで伸びるこの構造は「太陽系最大のコヒーレントな構造」とも呼ばれるが、地球付近で観測される頃には太陽風によって性質が大きく変質してしまうため、その素性を知ることは難しかった。
今回、ソーラー・オービターが太陽に極めて近い位置でこのシートを通過した際、鉄と酸素の存在比が境界を境に急激に変化していることが判明した。これは、電流シートが磁場の極性反転だけでなく、明確な化学的な「指紋」も同時に運んでいることを示す発見だという。研究チームは、この1回の通過で得られたデータだけでシート形成のメカニズム全体を解明できたわけではないとしつつ、今後の太陽風モデルが説明すべき組成・加熱・磁場構造に関する具体的な数値を初めて提供できたとしている。
太陽コロナがどのようにして太陽風へと姿を変えていくのかは、太陽物理学における中心的な謎の一つだ。今回の観測データは、地球の通信網や人工衛星に影響を及ぼす宇宙天気予報の精度向上にもつながると期待されている。
出典: Southwest Research Institute(2026年8月31日発表)