米イェール大学のエマ・ジェーン・ウェラー氏、プリヤムヴァダ・ナタラジャン氏と、米北テキサス大学のコリン・バーク氏らの研究チームは2026年9月、銀河同士の合体によって、本来銀河の中心にあるはずの超大質量ブラックホールがその位置から引きはがされ、数十億年もの長期間にわたって銀河内を”彷徨い”続けることがあるとする研究成果を発表した。こうした彷徨うブラックホールの分布パターンを調べることで、銀河がどのように進化してきたかという”隠れた履歴”を読み解ける可能性があるという。成果は学術誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載された。
研究チームが用いたのは、暗黒物質・ガス・星・ブラックホールの進化を一体的に追跡できる宇宙論的シミュレーション「ASTRID」だ。このシミュレーションの特徴は、ブラックホールを銀河中心に人為的に固定せず、周囲の物質との重力相互作用によってブラックホールが移動し、時間をかけて中心へ沈み込んでいく過程をそのまま計算する点にある。研究チームは、太陽質量の1000万倍から1兆倍まで幅広い質量を持つ銀河を対象に、およそ126億年分の進化を追跡した。
解析の結果、特に質量の小さい銀河ほど、ブラックホールが中心からずれた”彷徨う”状態にある確率が時間とともに高まっていくことが分かった。質量の小さい銀河は重力が弱いため、合体などによって一度中心から外れたブラックホールを再び引き戻す力が弱く、彷徨う期間が長引きやすいという。逆に、こうした低質量銀河では、ブラックホールが中心に留まっている銀河の割合が時間とともに減少していく傾向も確認された。研究チームは、この彷徨うブラックホールの割合の変化そのものが、銀河が経験してきた合体の履歴に関する情報を、数十億年経った後でも保持し続けていることを示すと説明している。
この成果が注目されるのは、宇宙最初期に生まれた”種”となるブラックホール(シードブラックホール)の起源をめぐる議論にも関わってくる点だ。ブラックホールがどのように形成されたのかという問いは、恒星サイズから超大質量まで質量が9桁も異なるブラックホールが同じ物理法則に従ってジェットを放出しているとする研究など、近年さまざまな角度から検証が進む分野だ。今回のように、低質量銀河に残る彷徨うブラックホールの”痕跡”を手がかりにすれば、直接観測が難しい宇宙最初期のシードブラックホールの姿を、間接的に推定できる可能性がある。
ただし、彷徨うブラックホールそのものを直接観測するのは容易ではない。中心から外れているうえに、活発に物質を取り込んでいなければ電磁波を放たず、存在を検出する手がかりが乏しいためだ。研究チームは今後、電磁波での観測が難しい対象についても、周辺の星の運動など間接的な兆候を通じて検出する手法の開発を進めるとともに、シミュレーションの精度をさらに高め、彷徨うブラックホールの分布が銀河の質量や合体の頻度によってどのように変化するのかを検証していく方針だという。
出典: Yale News「Roaming black holes may tell the hidden history of galaxies」(2026年9月23日)