ブラックホールは二つが合体して一つになることはあっても、一つが二つに分裂することはないと考えられてきました。南デンマーク大学などの研究チームは、その「分裂」が起こりうる条件を理論的に調べ、結果を物理学誌「フィジカル・レビューD」に発表しました。論文のタイトルは「When Black Holes Admit Pair-of-pants Topologies」です。
分裂が難しい理由は熱力学にあります。ブラックホールはエントロピー(乱雑さの度合い)を持ち、回転しない通常のブラックホールが二つの小さなものに分かれると、全体のエントロピーが減ってしまうため、熱力学的に不利になります。
ところが研究チームの計算では、高速で回転するブラックホールでは、分裂が熱力学的に許される余地が生まれることがわかりました。ただし、分かれた二つがすぐに引き寄せ合わず離れていけるという条件も必要で、これを加えると可能性は、ほぼ最大の回転速度に近い場合を除いてほとんど消えるといいます。
分裂が起きると、事象の地平面(そこから先は光も出てこられない境界)の形は時間とともに、一本の脚が二本に分かれるズボンのような形になります。論文名の「pair-of-pants(ズボン)」はこの形に由来します。
共著者のフランチェスコ・サンニーノ氏は、分裂する確率はまだ一つの数字として示せず、アインシュタインの理論を超えた重力の振る舞いに依存するため、現在定量化を進めていると述べています。また、小さな原始ブラックホールのほうが、大きな天体起源のものより分裂しやすいと予想しています。合体の際に生じうる微小なブラックホールの断片から出る信号を、ガンマ線望遠鏡「フェルミLAT」で探せるかもしれないとのことです。
今回の結果は理論計算によるもので、分裂が実際に起こることを観測で示したものではありません。
出典: Phys.org「Black holes spinning near maximum rate could split in two, calculations suggest」(2026年10月23日)