米フロリダ州立大学付属の国立高磁場研究所(MagLab)と米ブルックヘブン国立研究所などからなる研究チームは2026年9月中旬、1969年にオーストラリアへ落下した「マーチソン隕石」と2019年にコスタリカへ落下した「アグアス・サルカス隕石」に含まれる可溶性有機物を解析し、これまで記録されていなかった数万種類の有機分子を新たに検出したと発表した。成果は学術誌「プラネタリー・サイエンス・ジャーナル」に掲載された。
研究チームは、MagLabが保有する世界最強クラスの超伝導型質量分析装置「21テスラFT-ICR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)質量分析計」を用いて隕石中の有機物をごく微量のサンプルから解析した。この装置は極めて近い質量を持つ分子同士を分離して識別できる高い分解能を持ち、従来の分析手法では見過ごされてきた分子種を次々とあぶり出した。その結果、マーチソン隕石からは6万6000種類以上、アグアス・サルカス隕石からは9万1000種類以上という、いずれも桁違いに多い分子式が確認されたという。さらにブルックヘブン国立研究所のパーシー・ザール氏らは、非接触原子力顕微鏡(AFM)による観測を組み合わせ、個々の分子の構造そのものを画像として捉えることにも成功した。
今回の隕石はいずれも、地球や太陽系の惑星が形成される以前の材料物質をそのまま閉じ込めた「タイムカプセル」ともいえる炭素質コンドライトの一種だ。生命の材料となりうる有機物が、地球誕生前の太陽系にすでにこれほど多様な形で存在していたことを示す今回の結果は、生命の化学的な起源を探るうえで重要な手がかりになるとみられる。小惑星ベンヌの試料からプレバイオティック(生命誕生に関わる可能性のある)有機化合物が見つかった先の研究とも合わせ、隕石や小惑星がもたらした物質が地球の生命誕生の条件づくりに関与した可能性を裏付ける材料が積み重なりつつある。
研究チームは今回明らかになった分子群のうち、実際にどれが生命の起源に直結する化学反応に関与し得るのかは今後さらに検証が必要だとしている。同様の高分解能分析を他の隕石サンプルにも広げることで、太陽系形成初期における有機化学の多様性がどこまで解明されていくか、今後の研究の進展が注目される。